『ブルーフェアリーを探せ』 シナリオ








■第7場面 街頭3


 登場人物=ベッキオ、ミットーリオ、ジュリア、ネズミ






 落ちこんだまま、舞台袖から登場する三人。




ベッキオ 「まあ、これでスッキリしたってことだ。俺たち三人は、どっちにしても、あそこにはいられないんだ」




ミットーリオ 「そうだね」




ベッキオ 「これで、気兼ねなくブルーフェアリーを探せるってもんだ」




ミットーリオ 「そうだね」




ベッキオ 「それにはまず、やっぱり星を見つけなきゃな」




ミットーリオ 「そうだね」




ベッキオ 「あのなあ……おまえはさっきから、そうだね、しか言わないし、ジュリアときたら黙ったままだし……この重たい空気を、なんとかしようと思わないのか」




ミットーリオ 「そうだね。(と言ってから気づいて)あ、ごめん」




ベッキオ 「いいって。そうだね意外に、ごめんって別の言葉を言った。あとは、ジュリアが口をきくだけだ」




 と、ジュリアを見るベッキオとミットーリオ。


 だが、ジュリアはうつむいたまま。




ベッキオ 「よし。俺たちは、こう見えても、ついさっきまで現役の役者だった。ならばこういう落ちこんだ空気のときは、ミュージカルでは、どうすればいいか、わかってるはずだ」




ミットーリオ 「歌を歌うの?」




ベッキオ 「そのとおり。しかも、楽しい歌だ。サウンド・オブ・ミュージックでは、お気に入りを思い浮かべて歌った。ピーターパンでは、楽しいことを思い浮かべた。なら俺たちも、それらにならって、大好きな物、楽しいこと、なりたいもの、なんでもいいから、ワクワクするようなことを思い浮かべて歌って踊る。そうすれば、ハッピーになれる。だって俺たちは、役者なんだ。演じることなら、得意中の得意のはずだ。楽しい役を演じれば、楽しくなれるって」

 *******




♪11 ワクワクすること 歌=三人


(ベッキオ)


 お腹いっぱいの ケーキ


 まだ作りかけの プラモ


 泣いてないかいないさ




(ジュリア)


 水玉模様の ワンピース


 手作りの黄色い イヤリング


 泣いてないかいないわ




(ミットーリオ)


 高く舞いあがる トランポリン


 真夏の冷たい シャーベット


 泣いてないかいないさ




(全員)


 これからが本番だ




※行けよ そこが未来だ 階段につまずくな




(ベッキオ)


 回転のあとの フラフラ


 登りきる直前の コースター


 泣いてないかいないさ




(全員)


 これからが本番だ






(間奏)






(ベッキオ)


 お菓子についてる おまけ


 テストのあとの 回答


 泣いてないかいないさ




(ジュリア)


 しゃっくりを止めるための ミルク


 パーフェクトがかかった ボーリング


 泣いてないかいないわ




(ミットーリオ)


 20回連続の 縄跳び


 残り一個の ジグソーパズル


 泣いてないかいないさ




(全員)


 これからが本番だ




※行けよ そこが未来だ 階段につまずくな




(ジュリア)


 街で見かけたあの アイドル


 デートの前の 服選び


 泣いてないかいないわ




(全員)


 これからが本番だ






(間奏)






(ベッキオ)


 裏技で出した アイテム


 誰も知らない 抜け道


 泣いてないかいないさ




(ジュリア)


 羽化する瞬間の サナギ


 マシュマロのなかの チョコレート


 泣いてないかいないわ




(ミットーリオ)


 どこまでもまっすぐな 道路


 初めて開く 百科事典


 泣いてないかいないさ




(全員)


 これからが本番だ




※行けよ そこが未来だ 階段につまずくな




(ミットーリオ)


 行列の先に ある何か


 掘りおこした 謎のカン


 泣いてないかいないさ




(全員)


 これからが本番だ




 これからが本番だ




 これからが本番だ






 *******

 歌い踊るうちに、三人は明るくなった。




ベッキオ 「な、楽しい気分になっただろう」




ジュリア 「うん」




 ところがその直後、サイレンの音が鳴り響く。




ジュリア 「なにか騒ぎがあったみたい。あっちの方角」




ミットーリオ 「野次馬がいっぱいいるから、いかないほうがいいよ」




ジュリア 「でも、なんか嫌な予感がする」




ベッキオ 「だったら、なおさら近づかないほうがいい。厄介事は、もう充分って感じだ」




ジュリア 「そうだけど……




 そこへ、サイレンが聞こえる舞台袖から、ネズミがヘトヘトな状態であらわれる。


 ジュリアがネズミに駆けよる。




ジュリア 「ネズミさん、どうしたの? 向こうで、なにがあったの?」




ネズミ 「あのサイレンのこと? もう、大変だったんだから……




ベッキオ 「なんだよ」




ネズミ 「町中なのにさ、ヘビに襲われたんだ。信じられる?」




ミットーリオ 「ヘビ?」




ネズミ 「まったく、驚きだよ。相手は腹を空かせた、のろまなヘビだったから助かったけどさ……近頃じゃ、ネコだってネズミを襲わないのに、こんな町中でヘビに襲われるなんて、まったくついてない夜だ」




ジュリア 「それで、そのヘビはどうしたの?」




ネズミ 「俺を襲おうとしているヘビをたまたま人間が見つけて、それで人間が警察に通報したんだ。毒ヘビだったら大変だからな。そりゃあ誰だって通報するよ」




ジュリア 「ひどい。毒なんか持ってないのに」




ネズミ 「え? ひょっとして、あんたら、あのヘビとお知り合い?」




ベッキオ 「いやいや、知るわけないじゃん。ただ、町に毒ヘビなんか、いるわけないと思っただけだ。そうだよな、ジュリア」




ジュリア 「(不服そうに)うん」




ネズミ 「そう。とにかく、そのヘビ、なんだかすごくのろまでさ、警官が駆けつけると、あっさり捕まったんだ」




ミットーリオ 「それで?」




ネズミ 「それで、俺は命拾いをして、こうして逃げきったってわけ」




ミットーリオ 「そうじゃなくて、ヘビはどうなったの?」




ネズミ 「袋に入れられて、そのまま連れていかれたよ。当然だろう」




ミットーリオ 「だから、どこに連れていかれたの」




ネズミ 「そんなの、俺にわかるわけないだろう。たぶん、動物園にでも、引き取られるんじゃないか。……っていうか、なんで、あんたらさっきから、ヘビの心配ばかりしているわけ。あんたらの友人のこの俺が、そのヘビに食われそうになったんだぜ。ヘビのことより、俺のことを心配したらどうよ」




ベッキオ 「だっておまえ、元気そのものじゃん。見りゃわかるから、心配する必要ないじゃん」




ネズミ 「まあ……そりゃ、そうだ」




ジュリア 「動物園に運ばれたなら、ヘビが殺されるってことは、ないよね」




ネズミ 「そりゃあ、そうさ。動物園が、動物を殺すわけない」




ミットーリオ 「動物園だから、檻に入れられるけど、餌はちゃんと毎日、与えられると思うよ」




ネズミ 「動物園だから、そうだろうな」




ベッキオ 「そうか。じゃあ、ヘビにとっては、警察に捕まったほうが、良かったってことだな」




ネズミ 「そうなるな……って、やっぱ、あんたら俺のことより、ヘビのこと心配してるし、それに、あのヘビが動物園に入れられるなら、ますます世の中、不公平だ。たとえ俺たちネズミが警察に捕獲されたって、動物園に運ばれることはないぞ。そのまま、安楽死させられるのが落ちだ。くそ〜、やっぱ、俺が政治家になって世の中を変えるしかない。でも、ネズミが政治家になれるわけがない。俺が人間だったらな……




 ブツブツと言いながら、舞台の袖へ向かうネズミ。




ベッキオ 「おい、おまえ、人間になりたいのか? だったら俺たちと……




 と、声をかけるが、考え事をしているネズミには聞こえない。


 そのまま、舞台の袖に消えるネズミ。




ベッキオ 「行っちゃった」




ジュリア 「でも、これであのヘビさんは、もう安心ね」




ミットーリオ 「場合によっては、人間に飼われていたほうが、いいってこともあるんだね」




ベッキオ 「でも、俺たちの場合は違うからな。俺たちは自立しているんだ。人間に頼る必要はない。っていうか、その人間になろうとしているんだ」




ジュリア 「でも、人間になれなかったらどうするの。このまま、野良犬がうろつく町中をずっとさまようの」




ベッキオ 「それは……その……




ジュリア 「私たちも、人間に拾われることを考えたほうがいいんじゃない」




ベッキオ 「なんでだよ。俺たちは人形だから、ヘビのように腹を空かせることがない。人間から餌をもらう必要もないわけだから、無理に人間に拾われる必要もないだろう」




ジュリア 「でも、このまま人間と離れていれば、子供たちに喜んでもらうこともないわ。私たち、今までずっと、子供たちに喜んでもらうために、歌や踊りをやってきたのよ。それを、やめちゃってもいいの?」




ベッキオ 「(沈んだ口調で)人間になれたら、本物の役者になって舞台に立つことだってできるだろう」




ジュリア 「私は、人間になれなかった場合を言っているの」




ベッキオ 「なれるかなれないかは、まずは星を見つけてブルーフェアリーを呼びだしてからだ。そこでハッキリするから、なれなかった場合は、そのときに考えてもいいだろう」




ジュリア 「そう。そういうのを、行き当たりばったりって言うのよ。ほんと、適当なんだから」




ベッキオ 「なんとでも言え」

 *******




♪12適当でいいじゃん 歌=ベッキオ


適当でいいじゃん いい加減でいいじゃん


しょせん世の中は そんなもんさ




どうでもいいじゃん なんとなくでいいじゃん


行き当たりばったりの 世の中さ




※たとえ この世に終わりが来ようとしても


 なんとかなるもんさ たぶんな






しのげりゃいいじゃん すませりゃいいじゃん


どうにか切り抜けりゃ 御の字さ




巻かれたっていいじゃん 染まったっていいじゃん


生き抜くためには 必要さ




※たとえ この世に終わりが来ようとしても


 なんとかなるもんさ たぶんな






(間奏)




笑ってりゃいいじゃん ごまかせばいいじゃん


乗りきるための 常套手段


謝ればいいじゃん べそかけばいいじゃん


ときにはそんなことも あるもんさ




※たとえ この世に終わりが来ようとしても


 なんとかなるもんさ たぶんな




 *******

 そのとき、不意に殺気を感じる三人。


 いきなり、犬の吠える声。


 背景上部に、牙をむいた犬の顔(影絵)。




ジュリア 「きゃああッ」




 ジュリアが倒れこみ、その上に重なるように犬の影絵が、唸り声と共に激しく揺れる。


 ジュリアが、犬にかみつかれた。




 あまりにも突然のことに、腰を抜かして座りこむベッキオとミットーリオ。




ジュリア 「きゃああ」




 ジュリアの左腕が取れてしまう。




 我にかえったベッキオとミットーリオは、ジュリアを助けるべく剣を抜くが、犬の剣幕に押されて手出しができない。




 そのとき、女の子の声が聞こえてきた。




●女の子の声 「あ、野良犬がお姫様を食べてる。どうしよう……そうだ、これでも食らえッ」




 キャンッと犬の鳴く声。


 犬の影絵が消える。




●女の子の声 「しッ、あっちへ行けッ」




 背景上部に女の子の顔の影絵。




●女の子の声 「だいじょうぶ? お姫様……あ、腕が取れてる」




ジュリア 「あのときの女の子だ」




●女の子の声 「どうしてもお人形さんたちが心配で、お母さんに内緒で出てきたんだ。来てよかった」




ベッキオ 「とりあえず、助けてくれたことには感謝する」




 と、ベッキオとミットーリオは、女の子にお辞儀をする。




●女の子の声 「やっぱり、自由に動けるんだね。お人形さんたち」




ベッキオ 「そのとおりでござる」




ミットーリオ 「なんで、ござるなの?」




ベッキオ 「いや、なんとなく」




ミットーリオ 「それに、僕らの声は、聞こえていないはずだよ」




●女の子の声 「とにかく、うちへ行こう。この腕、直してあげる」




ジュリア 「この子、私の腕を直してくれるって」




ベッキオ 「でも、ブルーフェアリーは、どうするんだよ」




ジュリア 「なに言ってるのよ。腕が取れたままなんて、嫌よ」




ベッキオ 「わかってるよ。……そうじゃなくて、その子の家に行ったら、もう二度と外に出られない気がしてならないんだ」




●女の子の声 「お母さんには内緒で、三人とも、うちに連れてってあげる。見つからないようにするから、だいじょうぶ」




ジュリア 「私……やっぱり、人間にしてもらわなくてもいい。この子と一緒に暮らす」




ミットーリオ 「本気?」




ジュリア 「だって、私は子供たちを喜ばすために作られたんだもの。そして喜んでもらうために、お姫様を演じて、歌って踊ってきたんだもの。子供の笑顔をいつも見ていたいと思うのも、当然でしょ」




●女の子の声 「腕も、ちゃんと同じ色の糸でつないであげる。たぶん、お母さんの裁縫箱に、同じ糸があると思う……




ベッキオ 「なあ、ジュリア。おまえの気持ちもわかるけど、この子だって、いつまでも子供ではいられないんだ。そのうちにお化粧やアイドルに興味を持つようになれば、俺たち人形なんて、簡単に捨てられてしまう運命なんだ。そのときになったら、また同じことを繰りかえさなきゃならないんだぞ」




ジュリア 「それでもいい。今は少しでも長く、この子と一緒にいて笑顔に触れていたい」




●女の子の声 「あ……こんな糸、はじめて見る。どうしよう……




ベッキオ 「なあ、もしブルーフェアリーに会えたなら、その腕だってちゃんと直したうえで人間にしてくれるはずだ。だから、俺たちと一緒に行こう。その子の家に行ったって、幸せなのは最初のうちだけだって」




ジュリア 「ごめん、ベッキオ……ミットーリオ……。私、やっぱり、この子と一緒に行く」




 そのとき、女の子の母親の声が聞こえてくる。




●母の声 「ジェシーったらもう……やっぱり、こんなところにいた。だめでしょう、夜中に一人で町をうろついちゃッ」




●女の子の声 「あ、お母さん。ごめんなさい」




 背景上部の影絵が、女の子の顔から足に変わる。




●女の子の声 「でも、どうしても、このお人形さんたちが欲しかったの」




●母の声 「いくらお人形さんが欲しいからといって、夜中に一人で出歩いたりして、万が一のことがあったらどうするのッ」




●女の子の声 「ごめんなさい……




ベッキオ 「考え直せ、ジュリア。逃げだすなら今だ。その子が母親に叱られているうちだ」




 すると、ミットーリオがベッキオの肩に手を置く。




ミットーリオ 「行かせてやろうよ、ベッキオ」




ベッキオ 「なに?」




ミットーリオ 「僕、ジュリアの気持ち、わかるな。そのジェシーって子に、希望を託してみたくなったんだと思う」




ベッキオ 「なんの希望だよ。その子のそばにいたって、人間にはなれないんだぞ」




ミットーリオ 「人間にはなれないけど、人形としての幸せならつかめるかもしれないよ」




ベッキオ 「人形としての幸せだって?」




ミットーリオ 「うん」




●母の声 「ジェシー、早く、こっちへいらっしゃい」




●女の子の声 「でもお母さん」




 女の子の足の影絵が、舞台中央から舞台袖へ移動して、それにあわせてジュリアも舞台袖に引っ張られるように移動する。




ベッキオとミットーリオ 「ジュリアッ」




●母の声 「もう、二度とこんな真似をしちゃ、だめよ」




●女の子の声 「はい。でも、お母さん。私、どうしてもこのお人形さんたちが欲しいの。うちに連れて帰ってもいいでしょう」




●母の声 「またその話……




ミットーリオ 「ジュリアのことは、あの女の子に任せて、僕たちはここを離れよう」




 ベッキオの腕を引っ張って、反対の袖に移動するミットーリオとベッキオ。




●母の声 「仕方がないわね。いいわよ。だからもう、帰りましょう」




●女の子の声 「ありがとう、お母さん。じゃあ、他のお人形さんも持ってくるね」




●母の声 「なに言ってるのよ。あなた、ちゃんとお人形さん、持ってるじゃない」




●女の子の声 「ううん。まだ、二人いるの。おひげの悪人さんと、白タイツの王子様……あれ、どこかへ行っちゃった」




●母の声 「もういいでしょ。とにかく、遅いから帰りますよ」




●女の子の声 「でも、お母さん」




●母の声 「お母さんは、あなたの希望をかなえて、人形を持って帰るのを許しました。なのに、あなたはまだ家に帰ろうとしないのは、どういうこと。いつから、そんな悪い子になったの」




●女の子の声 「ごめんなさい……




 母に連れられて、渋々帰る女の子。


 それにあわせて、ジュリアも引っ張られるように袖に消えていく。


 完全に袖に消える間際。




ジュリア 「ごめんなさい、ベッキオ、ミットーリオ。人間になれることを、祈ってる」




ベッキオ 「行くな、ジュリアッ」




 反対の袖から。ベッキオとミットーリオ。

 *******




♪13別れるとき 歌=ベッキオ


 なんでだ 


 ここまで来たのに どうして 捨てる 


 いつの日か その夢も 叶うのに 


 だから 




 帰れ 


 望みはここにも きっと あるさ 


 あきらめず めざすなら その手で つかめるさ 




 *******

ミットーリオ 「ジュリアは、きっと幸せになれるよ。あの子のそばなら、間違いないよ」




ベッキオ 「だといいが」




ミットーリオ 「とにかく、僕らだけで、ブルーフェアリーを探しつづけよう」




ベッキオ 「ああ……そうだな」




 そして、舞台袖に消える。




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