『ブルーフェアリーを探せ』 シナリオ
■第8場面 街頭4
登場人物=ベッキオ、ミットーリオ、ネズミ
消えた舞台袖から登場するベッキオとミットーリオ。
背景上部は、別の街路。
ベッキオ 「なんだって、星が一個も見えないんだ」
ミットーリオ 「やっぱり、今日は曇り空なんじゃないかな」
ベッキオ 「町中が明るいうえに、曇ってるってことか」
ミットーリオ 「そうだと思う。日が悪かったんだよ」
ベッキオ 「だからといって、明日になったら、もう遅い」
ミットーリオ 「なんで?」
ベッキオ 「コック見習いや、あの宇宙服野郎が言ってただろう。明日は美化活動の日だって。そこらじゅうにゴミ拾いのボランティアが出てきて、俺たちをゴミと間違って焼却施設へ送るかもしれない」
ミットーリオ 「ゴミ処理場?」
ベッキオ 「ああ。そうなったら、それこそおしまいだ」
ミットーリオ 「そうか……だとしたら、ジュリアはあの子に拾われて良かったかもしれないね」
ベッキオ 「そうかもな……」
ミットーリオ 「とにかく、まだ夜は明けてないわけだし、このまま星を探しつづけよう」
ミットーリオが歩きだす。
だが、ベッキオは立ち止まったまま。
ミットーリオ 「どうしたの? 星を探しに行こうよ」
ベッキオ 「すまない、ミットーリオ。これからは、別行動を取ろう」
ミットーリオ 「なんで?」
ベッキオ 「なんでもだ」
ミットーリオ 「わけがわかんないよ」
ベッキオ 「わかんなくてもいい。これからは、別々に生きていくんだ」
ミットーリオ 「なんでさ。今まで、僕たちずっと一緒だったじゃない」
ベッキオ 「今まではそうだった。でも、これからは違う」
ミットーリオ 「なんで。理由を言ってよ」
ベッキオ 「理由か……」
ミットーリオ 「そうだよ、理由だよ」
ベッキオ 「じゃあ、言ってやる。おまえが、足手まといになったんだ」
ミットーリオ 「なに、それ……」
ベッキオ 「おまえが、邪魔なんだよ」
ミットーリオ 「どうしてさ。ずっと一緒に、協力してやってきたじゃない」
ベッキオ 「そうだけども、もう、うんざりなんだよ。おまえはいつも王子様で正義の味方で、俺はいつも悪役で嫌われ者で、おまえといると、俺はいつも損な役回りばかりさせられるんだ。それがもう嫌になった」
ミットーリオ 「そんな……」
ベッキオ 「こうして俺たちは、好き勝手に自由に町中を歩けるようになった。まだ人間にはなっていないけど、それなりに自分の意思で、好きなことがやれる。だったら、いつまでもおまえと一緒にいる必要もない。おまえと一緒にいれば、いつまでたっても俺は脇役になるだけだ。そんなのは、もうごめんなんだ」
ミットーリオ 「ベッキオ……」
ベッキオ 「だから……おまえは、勝手に好きなところへ行けよ。あのジェシーとかいう女の子の家に行くのも、いいかもな」
ミットーリオ 「そんなふうに僕のことを思ってたんだ……」
ベッキオ 「ああ。そんなふうに思ってた。俺は、悪役として作られて、悪役としてずっと演じてきた。そのせいか、性格も悪役に染まってしまったのかもしれない」
ミットーリオ 「わかったよ。でも、僕はジュリアのもとに行かないし、誰かに拾われるつもりもない。僕も、星を見つけてブルーフェアリーに会って、人間にしてもらう」
ベッキオ 「好きにしな」
ミットーリオ 「もし、お互いに人間になれて、姿形がすっかり変わったとしても、何処かですれちがったときに、わかりあえるといいね」
ベッキオ 「そうだな。すくなくとも、俺はベッキオの名前は変えないつもりだ」
ミットーリオ 「僕も、ミットーリオはそのままにしておく」
ベッキオ 「ありきたりな名前だが、もし人形だった頃の記憶が残っていたら、きっと話しあったときに、そうだとわかるだろう」
ミットーリオ 「うん。じゃあ、人間になれることを、祈ってるよ」
ベッキオ 「おまえも無事に人間になれるといいな」
そして、別れる二人。
ミットーリオが、そのまま舞台の袖へ消える。
一人残ったベッキオが、静かに歌い出す。
*******
♪13-2 別れのとき 歌=ベッキオ
別れのとき 涙がこぼれ
寂しくて 切なくて 声にならず
振り向いても 後ろ姿が
遠のいて 消えていく 街のなかに
だけど
今は
他に道はない 帰る 場所も
それぞれの 歩む道 進むだけだ
明かり灯る 街路のはずれ
いつまでも 見送って 祈るばかり
だけど
これが
できるすべてだと 何度も 何度も
言い聞かせ うなずいて 顔をあげる
それで
夢が
かなうものならば いつか きっと
また会える そのときを 信じて 歩くんだ
*******
歌い終わったとき、あのネズミが登場する。
ネズミ 「あれ、一人?」
ベッキオ 「ああ。ちょっとわけがあってな」
ネズミ 「それって、今だけ? それとも、これからずっと一人?」
ベッキオ 「これからずっとさ」
ネズミ 「ふ〜ん……まさか、他の二人が、ヘビやイヌに食べられたってことは、ないよね」
ベッキオ 「俺たちは人形だ。餌じゃない」
ネズミ 「そうか。じゃあ、単純に仲違いってやつか」
ベッキオ 「そんなところだ」
ネズミ 「でも、なんで?」
ベッキオ 「おまえも、理由が聞きたいってか」
ネズミ 「そりゃあ、気になるだろう。それに、おまえも、っていうことは、誰かに理由を言ったんだろう。だったら、俺にも教えろよ」
ベッキオ 「理由は簡単さ。俺と一緒にいれば、ゴミに間違えられるかもしれない。そうじゃないとしても、ミットーリオとジュリアは、王子様とお姫様だから、そこらに落ちてても誰かに拾われて、大事にされるだろう。でも、俺は違う。こんな姿じゃ、誰も欲しがらない。拾い主なんかあらわれず、けっきょく焼却炉行きだ。あいつらに、そんなみじめな姿は見せたくないし、むだに悲しませるだけだ」
ネズミ 「そうか……ってことは、仲違いじゃなく、仲間を思ってのことか。泣かせるねえ」
ベッキオ 「おまえの涙なんか見たくもねえよ」
ネズミ 「ところで、さっきはヘビに食われそうになって取り乱して聞きそびれたけど、レストラン・ピノキオは、どうなった。ちゃんと入りこめたか?」
ベッキオ 「んなわけ、ねえだろう。おまえがあの凶暴な野良犬を連れてきたばっかりに、なんだかしらねえけど、あの野良犬に狙われるようになったんだ」
ネズミ 「たぶん、勝手に動く人形がめずらしくて、気に入ったんじゃないか」
ベッキオ 「だけど、俺たちは餌じゃない」
ネズミ 「わかってるって。ただ単に、いたぶって噛み砕きたいって衝動にかられているだけだろう。イヌの習性ってやつだ」
ベッキオ 「冗談じゃねえよ、そんな習性」
ネズミ 「それじゃあ、もうレストラン・ピノキオは、あきらめたのか」
ベッキオ 「ああ。もともと、ピノキオが目的じゃないからな」
ネズミ 「へえ、そうなの。じゃあ、なにが目的なんだ」
ベッキオ 「星を見つけることだ。星を見つけてブルーフェアリーを呼びだして、人間にしてもらうんだ」
ネズミ 「え? 星を見つけると、人間になれるのか?」
ベッキオ 「正確には、ブルーフェアリーがあらわれて、願いをかなえてくれたならだ。それには、まず星を見つける必要がある。星に願いをかける必要があるんだ」
ネズミ 「なんだよ……そうだと知ってたら、俺はとっくに政治家になって世の中を変えていたのに」
ベッキオ 「え? どういうことだ」
ネズミ 「星に願いをかけりゃ、いいんだな?」
ベッキオ 「星が、見えるのか?」
ネズミ 「俺の住む公園からは、星がバンバン見えるぞ」
ベッキオ 「本当か?」
ネズミ 「ああ。その名も『星が見えるヶ丘公園』って言うんだ」
ベッキオ 「今日も、見えてるのか?」
ネズミ 「ああ。薄曇りだから、一個か二個くらいしか見えないが、さっきもちゃんと見えてたぞ」
ベッキオ 「やったあッ!」
ネズミ 「よし。じゃあ、一緒に来てくれ。『星が見えるヶ丘公園』に案内する。そんでもって、ブルーフェアリーの出し方を教えてくれ」
ベッキオ 「ちょ、ちょっと待った。……そうだ、ミットーリオも呼ぼう」
ネズミ 「あれ? 仲違いしたんじゃなかったの」
ベッキオ 「だから、仲違いじゃなく、思いやり別れだって」
ネズミ 「ああ、そう」
ベッキオ 「まだ、そんなに遠くに行ってないはずだ。ミットーリオも一緒に、その公園へ行って、みんなでブルーフェアリーを呼びだそう」
ネズミ 「そうだな、頼み事をするときは、大勢のほうが効果があるもんな」
ベッキオ 「向こうだ、行こう」
ネズミ 「お安い御用さ」
そして、舞台袖に消えるベッキオとネズミ。